絵本の裏側にある、捨て猫“でかお”のリアルストーリー

でかおの命が教えてくれたこと(u_u)*:.。.☆

『明日もいっしょにおきようね』

ぜひ、絵本に載っていない

捨て猫でかおのリアルストーリーも

読んでみて下さい
 

 捨て猫でかおのリアルストーリー1

 
 
寒い冬のある日、保健所に収容された一匹の大きなオス猫。

ちょっと不機嫌そうな顔をしているけど、おっとりした食いしん坊。

なんとかその猫の命を求おうと思い悩むノリコさん。

しかしそのとき猫はすでに…。

ある保健所で本当にあった猫と人との悲しいけれど、ぬくもりのある物語。
 

 捨て猫でかおのリアルストーリー2

 
 
「犬や猫をとりまく人」として、
これまでたくさんの人に会いに行ってきたわけですが、

 
取材を進めていく中で、
ある不思議な猫がいるという情報が寄せられ、
よくよく聞いてみると、
これが実に、
なんとも信じがたいような猫であるらしいというので、
実際に会いに行ってきました。

 
向かったのは、岐阜県多治見市。
この町に、問題の猫がいるという。
名前は「でかお」。
顔がでかいからそう名付けられたんだそうな。

 
そしてその「でかお」は、
そもそも保健所に収容された猫だったという。

 
そこで信じられないようなことが起こった。
はたして「でかお」は何を起こしたのか。

 
その場面を目の当たりにし、
現在は「でかお」の飼い主でもある好田さんから話をうかがうため、
ある場所で待ち合わせることに。

 
その場所とは、保健所。

 
好田さんは、日頃からここに収容された犬や猫の世話を個人的に行っているのだという。

「でかお」が収容されていたのもこの場所。
あいにく都合がつかず、訪れたのは日曜だったため休館日だったが、
「事件」はこの場所で起こったという。

 
到着してまず驚いたのは、その小ささ。
本館とは別の、隅の方にあるのが、犬や猫を収容する建物らしい。
しかも向こう半分は倉庫になっているそうで、
残るスペースは8帖くらいしかないのではないだろうか。
あの中にケージがいくつかあり、収容された犬や猫はそこに入れられるのだという。

 
 
<昨年12月に起こった「事件」>

 
 「土日は鍵がかかっていて入れないから、
金曜日にきれいに掃除して、エサもたくさん置いて、水も用意するんですけど、この暑さでしょう。
少しでも暑さをやわらげようとよしずも置いたんですけど、
それでも週末はいつもすごく心配で」
と話す好田さん。

 
たしかにあれは窮屈だろう。
しかも暑いだろうに。
好田さんによれば、ここの収容日は月曜となっていて、
迷い犬として保護される犬もいるが、飼い主自らが持ち込むこともあるという。

 
また、猫の場合は、野良猫が近所で産んだと言って持ってくる場合も多いらしい。
迷い犬の場合は、飼い主を捜すため公示期間があり、5日間の猶予があるが、
持ち込まれた場合それはなく、水曜日に定められている処分を待つだけとなる。

 
好田さんは、職員の許可を得て、
月曜から金曜まで毎日この場所に通い、
そうした犬や猫の世話をすると同時に、
里親捜しなどの活動を8年間続けてきたのだという。

 
そして、昨年の12月、ここで「でかお」に出会ったらしい。

 
「最初は、恐かったんです。
ここに入れられた猫って、だいたい警戒心から攻撃的になっていることが多いし、
そのうえ大きいし。
だから、おそるおそるケージの外からトイレシートを敷いたりしていたんですけど、おとなしかったんですね、この子は。
で、大丈夫かなあと触れてみても全然平気で、それから行く度に撫でたりしていて、なんかすごく気になっていたんです」

 
好田さんによれば、
「でかお」が収容された週は、
たまたま職員の都合か何かで水曜日の処分がなかったのだそうだ。

 
月曜日に持ち込まれて、中1日であっけなく処分されてしまう犬や猫に比べたら、
その時点で「でかお」は一度難を逃れていたことになる。
その間、好田さんの中で葛藤が続いていたらしい。
自分自身でも、すでに何匹もの猫を引き取っているが、それにも限界がある。
だけどやっぱり出してあげたい…。

 
「選んじゃいけないとは思うんですけど、
それでも全部は救えないから、どうしようって。
オスだし、家にいる猫と喧嘩するんじゃないかとかずっと悩んでいて。
でも木曜の夜にやっぱり引き取ろうと心に決
次の日、金曜の夕方に保健所に向かったんです。
そしたら、もう処分したと言われて、もうびっくりして。
てっきり翌週まで処分されないもんだとばっかり思ってましたから」

 
処分、という表現が適切であるかどうかはひとまず置いといて、
実際の現場では広く使われている言葉であるのはたしか。

 
もっといえば、
どこの保健所の職員だって誰も好きこのんで処分なんぞしたくはないはず。
それでも持ち込まれる犬や猫がいる以上、全部の面倒を見られるわけもない。
自治体によっても処分方法は異なるが、この保健所の場合、筋弛緩剤が用いられるらしい。

 
好田さんがかけつけたときには、
「でかお」は筋弛緩剤を注射されて、すでに1時間近くが経過していたという。

 
「それでもう慌ててしまって。注射を打たれた後は冷凍庫で一時保存されるんですね。
私、それを知ってたから、最後のお別れをしようと思って、冷凍庫のところまで行って扉を開けたんです。
そしたら黒い袋があって、よく見たら、がさごそと動いてたんですよ。
で、驚いて職員さんに『動いてます!』と叫んだら、そんなはずはないと。
でも何度見ても動いてるんですね。
そのうち職員さんも来て、確かめてもらってもやっぱり動いてる。
だから、連れて帰っていいですかと言ったんですけど、もう注射した後だし、絶対助からないから諦めなさいと。
それで、袋の上からもう一回注射を打たれてしまったんですよ。
それを見て、ああ、もう駄目だと思って……」

 
 
<奇跡の猫(2)~でかおが生き延びた理由>

 
「私、実は、以前にも筋弛緩剤を打たれた犬や猫を見たことがあったんです。
たいていは1分も経たないうちにぐったりしてしまうんです。
だけど、そのときは2回も注射されたのに、黒い袋はずっとがさごそと動き続けていたんですよ。
それでもう、たまらなくなって袋をばりばり破いて中を確かめたんですね。
そしたら、そこには2匹の猫が入れられていて、黒い猫はすでに死んじゃってたんですけど、
もう一匹は、目をあけてこっちを見てたんです。
それで慌てて抱き上げたら、体が冷たくなっていて。
その体を必死でさすって」

 
好田さんはそのときの状況をこう話す。
それはとても信じられるようなことではなかったが、たしかに目の前の猫は生きていた。

 
それと同時に、でもやっぱりもう駄目かもしれないという思いもしたそうだ。
だけど、それでも、この猫を家に連れ帰ろうという気持ちだったという。

 
「それで職員さんに、この猫連れて帰りますって言って。
もう助からないかもしれないけど、引き取るって決めたんだから連れて帰りますって。
そこで息を引き取るならそれでもいいからと、とにかく車で家に連れて帰ったんです。
知り合いの獣医さんに電話しても、いつ何がどうなるかわからないから様子を見るしかないと言われて。
だけど、夜になっても見たところなんともなさそうだし、
エサをあげたらペロッと平らげて。
それでも心配だから、次の日も、その次の日も、ずっと見てたんですけど、
普通に元気で、それから半年以上何もなく、今日にいたるという…」

 
冷凍庫で1時間…
すごい。そんなことがあるんだろうか。
だけど目の前の「でかお」は、たしかに元気そうだ。
突然連れてこられて若干迷惑そうではあるが、
体を撫でても嫌がらないし、顔をむにゅっと掴んでも平気。

 
たしかに顔はでかい。
でも、これくらい大きな猫はいくらでもいる。
どこかが特別だとは思えない。

 
よく見ると、特徴のある目をしていて、
なんとも愛嬌のある顔をしている。
なかなかの美猫だ。

 
というか、めっちゃ可愛い。
それにしても、こんなおっとりした猫が。

 
「後でいろいろな人に聞いたんですけど、
獣医さんによれば、冷凍庫の中というのが良かったんじゃないかと。
いったん低体温で仮死状態になってたんじゃないかと。
筋弛緩剤については、普通の猫より体が大きい分、量が足りなかったんじゃないかって。

 
でも、2回打たれて大丈夫ってわけはないでしょうし、結局はわからないんです。

 
だけど、この子は何かの理由があって生かされたのかもしれないなあと思うことはあります。
普通じゃ、まずありえないことですから」

 
好田さんが保健所の犬や猫の世話をするようになって8年の間でも、こんなことは初めてだったという。
それはそうかもしれない。
それにしても、そもそも好田さんは、どうして個人で活動を始めるようになったのだろうか。

 
「私、ペットシッターをやっていて、あるお宅の犬の世話をしに行ったときなんですけど、
保健所から回覧板が届いたんです。
で、読んでみたら、
近所の空き家に住み着いている野良犬を捕獲するために、いついつ睡眠薬入りのエサをまくから、
飼い主は自分とこの犬が拾い食いしないように注意してください、みたいなことが書いてあったんですよ。
そのときなぜか気になって、保健所にその犬が捕獲されたら見に行こうと思ったんです」

 
好田さんが保健所に問い合わせたところ、
野良犬は3匹いて、近所から苦情が寄せられていたという。
それを捕まえるために、すでに餌付けを始めており、
まもなく睡眠薬入りのエサで捕獲する予定だとのこと。

 
それから数日、再び問い合わせて、例の野良犬が捕獲されたと聞いた好田さんは、保健所に向かう。

 
「そしたら犬は1頭しかいなかったんですよ。
聞けばそれがボス犬らしく、何かを感づいたのか、他の2頭のエサも全部食べちゃったみたいなんです。
だから致死量の睡眠薬が体に入っちゃって、目の前でぐーぐーいびきをかいて寝ていたんです。
大きな、白い犬だったんですけど」

 
他の犬を助けようとしたのかどうかは定かではないが、
そのときに限って、まかれたエサをボス犬が全部食べてしまったのだという。

 
結果的に、他の2頭は姿を消して、どこかへ行ってしまったらしい。

 
「結局、その犬は助からなかったんですけど、そのときに思ったんです。
犬でも、自分を犠牲にして仲間を守るんだと。
その犬のことがすごく心に残って、それがきっかけというか、
もともとどうぶつが好きというのもあったんですが、
これからは保健所に入れられた犬や猫を少しでも助けようと思ったんです。

 
もしあの大きな白い犬と出会っていなければ、こんなことやってないかもしれない」

 
好田さんが活動を始めてから8年の間に保健所から救い出した犬や猫の数は、
500匹を超えるという。

 
もちろんそれらは収容された全体の数から見れば一部かもしれない。
でも結果的には、一頭の野良犬が好田さんを突き動かし、
多くの犬や猫を救ったといえなくもない。

 
そして「でかお」とだって、出会ってなかったかもしれない。

 
 
<奇跡の猫(3)~救った命に思うこと>

 
「でかお」は、強運というか、奇跡というか、ものすごい生命力というか、
偶然もいくつか重なった結果、助かった。

 
そこに何か特別な理由があったのかどうかはわからない。
だけど、その影でひっそりと処分される犬や猫が多いのも事実。
そのあたりについて、好田さんはどう思うのだろう。

 
「たとえばその猫が明日処分されるとわかっていても、
私はやっぱり生きている以上は最低限のこと、
汚物で汚れないように綺麗に掃除してあげるとか、
お腹を満たしてあげるとか、そういうことはやってあげたい。

 
老犬だって、そこら辺を少し散歩させたり、おやつをあげたり、最低限そのくらいのことはしてあげたい。

 
それが一応信念というか、そういう気持ちでやってます」

 
収容される犬や猫の中には、病気を持っていたり、老齢のため弱っていたりして、
どうしても譲渡の対象にはなりにくいものもいる。
そうした場合、たとえ処分されることが決まっていても、好田さんは最後まで面倒を見るのだという。

 
「だけど首輪をしていたり、明らかに飼われていただろう思われるものとか、
飼い主が持ち込んだ子猫なんかを見ていると、
どうして最後まで面倒を見てくれないんだろう、
どうして去勢や避妊をしないんだろうという気持ちにはなります」

 
やっぱりそこに尽きるのかもしれない。

 
聞けば岐阜県も昔に比べたら野良犬の数はかなり減っているという。
ということは、保健所に収容されるほとんどの犬が誰かに飼われていたわけで、
飼い主が自ら持ち込むケースが多いのだろう。

 
最初に書いた通り、そうした場合、保健所では猶予期間がなく、即処分の対象となる。

 
「県には、動物管理センターがないんですね。
だからもしそれが出来てくれれば、保健所は一時預かりにみたいな感じになって、
すぐ管理センターに移ることになるだろうし、
そしたら収容スペースも増えるだろうし、環境だって良くなるだろうし、
猶予期間もある程度ながくできるだろうし、
そうすれば譲渡できる犬や猫の数がもっと増えるのにという願いはあるんですけど」

 
それでも、好田さんが関わるようになってから、
猫もできるだけ里親を捜す努力をつづけてきたという。

 
それは、県の統計(猫の引き取り及び状と頭数)にも結果が表れている
(他の保健所では猫の譲渡数が0からせいぜい10数件なのに対し、好田さんが関わっている保健所では177件)。
他の保健所の猫はほとんどといっていいほど譲渡されていない現状において、
ひとりでここまでやるというのはすごいことだと思う。

 
「でも一番いいのは、動物管理センターなんか作る必要がないくらいになることだと思うんです。

 
保健所だってそうですけど、職員さんだって、本当は処分なんかしたくないわけですよ。

 
誰かが持ち込んでくるから、どうしようもないだけで」

 
たしかにそうかもしれない。
こういう問題を取り上げるときに、施設の人を責めるのはおかしい。

 
以前、ある動物愛護センターの職員も、辛いし、やりたくないけど、
どうぶつに愛情がない人がやるくらいなら自分が手厚く最後まで見届けてやろうと思ったと語っているのを聞いたことがある。

 
好田さんが通う保健所の担当者もそうなのだろう。
実際、担当者が協力的だったからこそ、8年もの間こうした活動を続けてこられたんだという。

 
いずれにしても個人でできることには限りがある。
そんな中で、好田さんは、これからも活動を続けていくんだろうか。

 
最後にそう聞いてみると
「やり出した以上は。
全部が全部はもちろん無理だけども、それでも助かっている犬や猫は少しはいるので、
私がやめちゃったら、それもなくなるでしょ。

 
それに、でかおを見ていると、やっぱりこの子たちは生きたいんだなと思って。
それなら、少しでも助けられる命は助けてあげたいという思いが、でかおの一件でより強くなりました」
とのことだった。

 
そう話す好田さんの姿を、
突然のおでかけにやや迷惑ぎみのでかおが、
ケージの中から「早く帰ろうよ」とばかりに眺めていたのだった。

 
ごめんごめん、外へ呼び出したりして悪かったな。
でも会えて良かったよ。
元気でな、ま、お前なら大丈夫か。
しかし、お前、すごい奴だな。
そう語りかけても
「なにが?」という目をするだけの「でかお」だった。

 
この取材から数ヶ月後
でかおは、2012年7月18日に息を引き取ったそうです。

 
*日経ウーマンオンラインより転載させていただきました